九井諒子と枠物語の技巧
公開日:
:
最終更新日:2016/01/16
漫画について ひきだしにテラリウム, 九井諒子, 竜のかわいい七つの子, 竜の学校は山の上
『ダンジョン飯』があまりに良すぎて、既刊の短編集をすべて購入してしまいました。九井諒子という作家を評するには、陳腐ですが「想像力」という言葉がふさわしいのかと思われます。
短編集の題材もあまりに多彩で舌を巻きます。中世ファンタジーから日本昔話風のものもあり、かと思えばケンタウロスが溶け込んだ現代日本を描いたり。遠未来なSFもあります。何でも描けるし、それが面白い。稀有な作家です。
九井諒子の描く枠物語
なかでも素晴らしい出来と思ったのが、短編集『ひきだしにテラリウム』収録の『えぐちみ代このスットコ訪問記 トーワ国編』である。
枠物語というのは、いわゆる劇中劇のことですね。作品中に実在する作品を、作中で描くアレです。浅野いにおの『デデデデ』でいう『イソベやん』です。
『えぐちみ代このスットコ訪問記』も、その名のとおり、漫画家である「えぐちみ代こ」が描いたであろう旅行のレポ漫画が冒頭から描かれる。そのすっとぼけたタッチが、妙に「あるある」で秀逸なのですね。
『ひきだしにテラリウム』を読み進めて、いきなり絵柄が「えぐちみ代こ」にバトンタッチする。この短編が上手いのは、「えぐちみ代こ」の視点がすっとぼけたレポ漫画として描かれ、現地の富豪にこき使われる少年の視点は九井諒子の絵柄で描かれるという点です。
小難しく書いてみましたけど、言いたいことは「単純にすげー」なのです。それしかない。すげーわ。
ちなみに、少年から見た「えぐちみ代こ」も九井諒子本来のタッチで描かれていたりと、1粒で2度おいしい。デフォルメされた自画像としての「えぐちみ代こ」と、九井諒子が描く「現実」としてのえぐちみ代この差がこれまた楽しい。
ちなみに九井諒子は別の作品でも枠物語の手法を取り入れています。短編集『竜のかわいい七つの子』収録の『狼は嘘をつかない』です。
こちらの作品では、狼男症候群の息子をもつ母親が、これまたすっとぼけたタッチで描いた育児レポ漫画が登場します。『我が家のワン!ぱく息子』というタイトルで、架空の育児エッセイ漫画です。
九井諒子というのは、これらのパロディが本当に上手い。ぜひ実際に読んでみていただきたいと思います。
枠物語が使われるこれらの作品で共通していわれているのが、立場の違う人間の視点の差だと思われます。世界の見え方の差を、「その人が描いた漫画作品」として登場させることで、コミカルながらもそれゆえにエグいほどの差として浮彫りにさせているのです。
「絵柄」を変えることで生まれる遊び。九井諒子だったり東村アキコだったり、女性作家は懐が広いなと感じます。
(画像はこちらから)
こちらは『ショートショートの主人公』という作品。『ひきだしにテラリウム』収録です。
関連記事
-
作品と同じくらい作者がコンテンツになる
ウイッス。 漫画描いてる人です。 リバーサイドティーンズ
-
BLEACH69巻感想をネタバレしないよう頑張る
http://urx.nu/n5i2より[/caption] 気が付いたら出ていてび
-
絵が上達する近道を考える
絵が上手くなりたい。それにしてもなりたい。とにかく上手く描けるに越したことは
-
シドニアの騎士とGIANT KILLINGがKindleでタダなので買いました
1~3巻が100%オフ。 どっちも7月2日までらしいです。
-
漫画のネームが進まない!!という時の3つの対処法
漫画のネームが進まない。どうにもこうにも行き詰まってしまう。 漫画を描いた
-
王様達のヴァイキング8巻感想(ネタバレ含む)
photo by http://urx2.nu/n7uF[/caption] 『王様達のヴァイキ
-
キャラクターをつくる方法とか、参考になる漫画とか。
実験的に数日間ブログの更新をやめてみたところ、なんだか心身ともに調子が悪
-
Q.質と量、どっちが大事? A.両方やれ
僕は努力が好きだ。一人で黙々と作業をしている自分が大好きだ。本当にキモい。  
-
デジタルで絵を描く利点って結構あるのよ。
気が付くと小鳥さんを描いています。カルロス袴田です。 デジタルに移行し
-
江崎びす子の性別が男と知った時の衝撃
画像はメンヘラチャン公式Tumblrより メンヘラチャ