*

九井諒子と枠物語の技巧

 

『ダンジョン飯』があまりに良すぎて、既刊の短編集をすべて購入してしまいました。九井諒子という作家を評するには、陳腐ですが「想像力」という言葉がふさわしいのかと思われます。

 

短編集の題材もあまりに多彩で舌を巻きます。中世ファンタジーから日本昔話風のものもあり、かと思えばケンタウロスが溶け込んだ現代日本を描いたり。遠未来なSFもあります。何でも描けるし、それが面白い。稀有な作家です。

 

九井諒子の描く枠物語

なかでも素晴らしい出来と思ったのが、短編集『ひきだしにテラリウム』収録の『えぐちみ代このスットコ訪問記 トーワ国編』である。

枠物語というのは、いわゆる劇中劇のことですね。作品中に実在する作品を、作中で描くアレです。浅野いにおの『デデデデ』でいう『イソベやん』です。

 

『えぐちみ代このスットコ訪問記』も、その名のとおり、漫画家である「えぐちみ代こ」が描いたであろう旅行のレポ漫画が冒頭から描かれる。そのすっとぼけたタッチが、妙に「あるある」で秀逸なのですね。

『ひきだしにテラリウム』を読み進めて、いきなり絵柄が「えぐちみ代こ」にバトンタッチする。この短編が上手いのは、「えぐちみ代こ」の視点がすっとぼけたレポ漫画として描かれ、現地の富豪にこき使われる少年の視点は九井諒子の絵柄で描かれるという点です。

 

小難しく書いてみましたけど、言いたいことは「単純にすげー」なのです。それしかない。すげーわ。

 

ちなみに、少年から見た「えぐちみ代こ」も九井諒子本来のタッチで描かれていたりと、1粒で2度おいしい。デフォルメされた自画像としての「えぐちみ代こ」と、九井諒子が描く「現実」としてのえぐちみ代この差がこれまた楽しい。

 

 

ちなみに九井諒子は別の作品でも枠物語の手法を取り入れています。短編集『竜のかわいい七つの子』収録の『狼は嘘をつかない』です。

こちらの作品では、狼男症候群の息子をもつ母親が、これまたすっとぼけたタッチで描いた育児レポ漫画が登場します。『我が家のワン!ぱく息子』というタイトルで、架空の育児エッセイ漫画です。

九井諒子というのは、これらのパロディが本当に上手い。ぜひ実際に読んでみていただきたいと思います。

 

枠物語が使われるこれらの作品で共通していわれているのが、立場の違う人間の視点の差だと思われます。世界の見え方の差を、「その人が描いた漫画作品」として登場させることで、コミカルながらもそれゆえにエグいほどの差として浮彫りにさせているのです。

 

「絵柄」を変えることで生まれる遊び。九井諒子だったり東村アキコだったり、女性作家は懐が広いなと感じます。

 

(画像はこちらから)

こちらは『ショートショートの主人公』という作品。『ひきだしにテラリウム』収録です。

関連記事

ペン入れ練習の方法を考える

  モソモソとペン入れ練習と、アイデア出しを兼ねて落書きをしておりました。

記事を読む

『習慣の動物』になる生き方

例によって特に意味のない落書きです。   この記事にて引用されている村

記事を読む

24時間生きてて「ネタがない」ってことはない

ブログにしても、漫画にしても「ネタがない」なんてよく言われる。書きたいけど、何について書いたらいいか

記事を読む

デジタルで絵を描く利点って結構あるのよ。

気が付くと小鳥さんを描いています。カルロス袴田です。   デジタルに移行し

記事を読む

BLEACH68巻感想をネタバレしないよう頑張る

そういえば次69巻だから檜佐木が表紙とか、ねーよな。 ねーよ。  

記事を読む

やらない理由をみつける時間でやれ

ものごとを進めるにはとにかく行動が必要でございます。最近、僕もその辺を(やっと)意識しはじめた次第で

記事を読む

『漫勉』にあって『マンガノゲンバ』になかったもの

(画像はこちらから) 『浦沢直樹の漫勉』。最近でもっとも面白いテレビ番組なんじゃないか

記事を読む

web漫画のコマ割りこそが漫画の最新型なのか?視線誘導のアレコレ

漫画のコマ割り、たのしいですよね。苦しいときもありますが、上手くいくと楽しいですよね。コマ割といえば

記事を読む

BLEACH69巻感想をネタバレしないよう頑張る

http://urx.nu/n5i2より[/caption] 気が付いたら出ていてび

記事を読む

「面白さ」を絶対的な基準と考えて図解してみたので見てくれ。

      面白いものを作る人は、本当に世の中にいっ

記事を読む

no image
DMMブックス Androidスマホ版アプリでログインできなかったのを解決した備忘録

ヘルプに記載がなかったので備忘録として書いておきます。 端末の

no image
読んだ本:六道の悪女たち

超面白いので全員読んでください。

no image
読んだ本:個人的な体験/大江健三郎

実体験をベースに書かれた作品とのこと。或る強烈な葛藤に苛まれ

no image
読んだ本:最後にして最初のアイドル

えらいよかったです。SF。ジャンル名に詳しくはない

「再利用されたコンテンツ」でYouTube収益化停止されたボカロPが復活までにやった対策

2018年末くらいから頻発しているらしい、「再利用されたコンテンツ」と

→もっと見る

PAGE TOP ↑