3巻出ました! ヤマシタトモコ『さんかく窓の外側は夜』が怖い
公開日:
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最終更新日:2016/03/20
漫画について さんかく窓の外側は夜, ヤマシタトモコ, 運命の女の子
(画像はこちらより)
ヤマシタトモコという作家は凄い。何が凄いって、作品ごとにカラーがまるで違うのに、それらすべてにヤマシタトモコっぷりが貫徹されているからに、他ならない。稀有な作家であると同時に、恐ろしい。
つい先ほど、『さんかく窓の外側は夜』1巻・2巻までを読み終えました。その感想も兼ねまして、ヤマシタトモコという作家についてお話していこうかと思います。
さんかく窓の外側は夜
内容をまったく知らずに読みました。なにせ、本屋に並んでたヤマシタトモコ作品をずらっと買ってきましたので、内容とかを気にするアレがなかったのです。とりあえず、ヤマシタトモコ読もう、みたいな気分だったのです。
『さんかく窓』は、ヤマシタ先生としては初になるのか、サスペンスであり、ホラーというジャンルに入るであろう連載作品。端的に言えば霊能のお話となっております。日常生活にふと入り込む、見間違いかと思いたくなるような霊の描写がめっちゃ怖い。
バリバリのホラーです、とは言えません。わりとコメディタッチで描かれますし、版元がリブレ出版とのことで若干のボーイズラブ感もございます。直接的なBLっぽさはあんまりないのですが、読んでみると「あぁ、上手いな、そしてエロいな」と思わせる描き方。ほんとうに、お上手です。
でも、だからこそ、ホラー描写が際立ちます。ホラー苦手って方にはちょっとおすすめできないかもしれません。なぜなら、やっぱり怖いですもの。ドバーンという怖さよりも、心の隅っこにじわっとシミのように残る怖さ。ジャパンホラー的な怖さといえるのではないでしょうか。とっても怖い。
ヤマシタトモコって、構図が独特だったりします。変な角度やパースのついた構図ではなく、ほんと真横とか真正面からの構図なんかを多用する作家です。よくこれで画面つくれるよなぁ、といっつも思うのですが、それが氏の魅力でもあります。そんな構図のとりかたによって、淡々としたシーンは本当に、粛々と進行していきます。これはいつものヤマシタトモコ作品とおんなじです。
ですが、そこに突如として現れる、トラウマ系心霊描写。これが、うわっとなります。主人公の三角(ミカド)くんも、霊が極端によく見える体質でありながら序盤は「怖い」の一点張りです。そう、怖いんです。見えると怖いもんが見えるというのは、特殊能力だとかそういうコト抜きにして、ひたすら怖い。
相棒である冷川(ひやかわ)さんもまた、変人っぷりが良いのですが、こちらもまたメンヘラちっくな怖さがあります。でもやっぱ、それよりも霊が怖いのですけれども。非浦英莉可というキャラクターも憂いを帯びたサイコでとんでもない存在感ですし、一見するとチャラ男なのですが頼りがいのある迎(むかえ)くんもとってもいい奴。総じてキャラクターが強い。
ヤマシタトモコの怖い漫画『無敵』
そんなヤマシタトモコ作品ですが、個人的にもっと怖いと思うのが『無敵』という読み切り。これが、もっとも怖い。
色気のない女刑事が、16歳の殺人犯を問い詰めるというサスペンスなのですが、とにかく殺人犯の由里本美鳥がサイコパスなのです。もう、これにつきる。キャラクターがいれば漫画は成り立つ、という究極的な作品のひとつであるといえるでしょう。言ってしまえば彼女は『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクターにきわめて近い。
おそらくすごく高い知能を持っているから、会話が微妙にズレるのです。尋問に対する答えも、こちらが想定するものを飛び越していく。だから、友人について尋ねられても合理的な理由で友人関係を説明し、「そういう質問じゃねーだろ」みたいな印象を受けるのです。でも、たぶん彼女にとって人間ってそういう対象であるということはマジなんでしょうし、だから仕方がない。
冷静に受け答えをしているかに見えて、突然大きなリアクションをとったりするあたり、常人との思考の差が垣間見えたり。とにかく、そんな「こちら主導ではコミュニケーションがとれない」ような存在を非常に巧みに、そして恐ろしく描いている作品が『無敵』という短編です。
先日放送された『浦沢直樹の漫勉』にて藤田和日郎先生が登場しまして、「藤田作品に登場する”こいつとはコミュニケーションとれねーな”ってキャラの目つき」についてお話をしておりました。まさに、ヤマシタトモコの『無敵』に登場する由里本美鳥という人間も、そんな目をしています。
漫画のキャラクターって、目や眉毛の位置が数ミリ変わるだけで、まったく違う印象に変わります。『無敵』では、そんなところも意図的に利用しているような、焦点が微妙に合わない由里本美鳥の表情が描かれております。
『無敵』は短編集『運命の女の子』に収録されております。3篇の読み切りが収録されていますが、帯にあるとおりサスペンス・ラブストーリー・ファンタジーという毛色の違う3本立て。ひとり異種格闘技です。こちらもぜひ、ご一読を。
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