魅力的な漫画のキャラ作りッ!!漫画家ワナビーが語る3つの要素
漫画のキャラ作りは、いちばん楽しい点であると同時にもっとも漫画家志望を悩ます点なのではなかろうか?
授業中、ノートの片隅に描いては消し、を繰り返した自分のオリジナルキャラクター。
彼らと名作漫画の魅力的なキャラとは、どんな違いがあるのか分からず、枕を濡らす日々を送る方々も多いだろう。
漫画はキャラである。
大言壮語のようでありますが、的を射た言葉であると思う。
名作には名主役がおり、名脇役もいる。
極端に言えば、よい漫画とはよいキャラの動きを追ったものなのです。
漫画家ワナビーのクソ野郎である私が、備忘録的に漫画のキャラ作りについて語ろうと思う。
①漫画のキャラ作り:成長するキャラであれ
漫画に限らず、エンターテイメント作品における主人公キャラへ、読者が期待するものは「成長」なのである。
「えっ、そうなん(鼻ホジ)」と思われるかもしれんが、成長という要素は漫画のキャラ作りにおいてめちゃくちゃ重要だったりする。
読み切りの短編作品であれば、ページ数が40ページぐらいとめちゃくちゃ少ない。
連載作品と比べると雲泥の差だ。
それだけ、キャラを描けるスペースが少ないということになる。
通常40ページを読むのに読者が要する時間は、長くて30分ぐらいだと思う。
サクっと漫画を読んじゃうライトな読者であれば、ものの5分くらいであらすじを追ってしまうだろう。
そんななかで、主人公キャラおよび周囲の人物が何の成長も遂げず、何も起きない物語が40ページにわたり描かれたら、読者はどう思うだろうか。
「うわ、なんだこのクソ漫画!ツイッターでディスったろ!」
と、速攻でキャプ撮られて晒されて終了である。
というか、晒されるぐらいならまだマシかもしれない。
というか、そもそもそんな作品は掲載されない。
漫画を読む楽しみは、その作品を読む前と後で、自分の気持ちに何らかの変化があることの期待と、その実感であると言える。
では、あなたの作品で、読者の心に化学反応を起こすことのできる要素は何かって言われたら、やはり主人公キャラになる。
漫画作品でいちばん登場率の高いキャラが主人公となる。
つまり、主人公はいちばん読者の目に触れる確率が高いと言い換えられる。
その主人公キャラに、読者の心を動かす仕掛けを施してあげればよいのだ。
読者の心を動かすために、もっともよく用いられるのが「共感」である。
読者は、「こいつの気持ちわかるわ~」という感情にもっとも共感する。
主人公キャラは、読者の気持ちを代弁させることで共感を生む重要なギミックとなるのである。
で、長くなったけども、読者の共感を呼びやすい主人公のキャラ造形として、もっともポピュラーであるのが「成長する主人公」であるといえよう。
成長とはたとえば、物語の冒頭からラストページの間で、
「主人公がめっちゃ強くなる」
「主人公が恐怖を克服する」
「主人公が借金を返済する」
「主人公が好きな女の子と付き合う」
みたいなベタなもんでも構わない。
ベタなもんは、それだけ人気がある。
また、成長をもう少し拡大して、「変化」する主人公を描くのも面白い。
最近はダークでブラックなキャラ造形が流行っているので、
「主人公が人間の心を失った暗殺マシンになる」
「新世界の神になる」
「浮気がバレずに4股ぐらいを続ける生活エンディング」
みたいな、「良いんですかそれ!?」みたいな意外な変化をさせるのも一興である。
ただ、あまりにも道徳的にアレな主人公にしてしまうと、読者の共感が得られないので、その辺はうまいこと他のキャラなどで調整する必要があるんだけど。
とにかく、「主人公は成長させよ」というのが鉄則となってくる。
②漫画のキャラ作り:異常であれ
「俺は佐藤、いたって普通な高校生だ」
みたいな出だしを思いつく創作家志望は多い。
まぁ実際のところ、いきなりそんな自己紹介をはじめる佐藤は立派に狂人に近いのであるが、エンターテイメント作品のなかでそのような語りが入ってしまうと基本的には凡人として描かれることが多い。
いわゆる「キョン的」な、クールでちょっと斜に構えたぐらいの普通の高校生、みたいなキャラを主人公にしたくなる気持ちはすごく分かる。
生みの苦しみがない。
いわゆるテンプレ主人公の造形である。
だが、キョンの周りにはご存じのとおり、あの涼宮ハルヒを筆頭に、未来人や超能力者やホモがたくさん集まったという異常事態が用意されたのである。だからこそ、普通の人間であるキョンは「かえって浮いて見えた」わけである。
逆に言えば、普通の人間をメインキャラに据えるのであれば、その普通さが異常に見えるような周りの異常性を描くことが必要不可欠となってくる。
もしあなたが次回作の主人公に、普通の人間を想定しているのであれば、その「普通さ」と周囲をとりまく「異常性」のバランスを意識することが肝要である。
はっきり言って、普通と異常を天秤にかけて、「普通」に傾いてしまった物語は面白みにかけると言えるだろう。
少なくともエンターテイメントの尺度ではそうなる。
(あえて「すべてが普通すぎる普通」を描くような、メタ的な遊びをしたいなら別です)
読者が求める刺激というのは年々エスカレートする。漫画というのははっきり言って、読者層が若いゆえに「もっとも飽きられやすいエンターテイメント最前線」であることは言うまでもない。
そんななかで、既存の作品にはなかった異常性をもつキャラをアピールすることは極めて重要である。
異常性というと、反社会的なイメージを抱くかもしれませんが、別にそんなことはないです。
吉良吉影や夜神月みたいなダークヒーローともいえる連中は、その手口もあいまってサイコな異常性を醸し出しますが、それは結果の問題であって、主人公もまたある程度は異常な存在であると言えるのです。
吉良吉影と対比される、主人公の東方仗助だって、あの時代にサザエさんよろしくのハンバーグヘアですし、根はやさしいとはいえバリバリのヤンキー。制服も信じられないほどに改造されています。
僕の大好きな『セクシーボイスアンドロボ』だって、主人公のニコは中2にしてテレクラのサクラを遊びでやっている不良娘です。そのくせ親にはその正体を明かさずカマトトぶっており、年齢不相応の高い知能をうかがわせます。
凡人を描くことは可能であるものの、初心者がやりやすいのは「異常性をもった主人公キャラ」であることはお判りいただけだだろうか。
さらに言えば、「異常性をもった主人公キャラ」であればあるほど、ストーリーも動きやすくなるのです。
たとえば、『こち亀』の両さんに、ドローンを渡してみることを想像してみてください。
それだけでなんとなく物語が作れそうな気がします。
キャラが強烈であり、その異常性を理解していればいるほど、単純なきっかけでもそのキャラがどう動くかを考えることが容易になるので、自然と物語が生まれるのです。
もちろん連載作品のキャラと、僕のようなキャリアゼロの新人が作るキャラを比較することは月とスッポンなわけですが、その差を埋めていくのはそういった工夫であると言えるのではないでしょうか。
(もちろん、人と違うことをすることは大いに結構ですから、あえて凡人を突き詰めることも挑戦しがいのあることだといえますよ)
③漫画のキャラ作り:相反するキャラを置け
「俺は佐藤。映画研究部に所属して年間6000本もの映画を見ている映画キチガイだ。
そんな俺だが、転校生のあの子に告白したらOKが出たので付き合うことになった。
まったく、人生も映画みたいにハッピーエンドが用意されてるもんだぜ」
完
このように、主人公である佐藤にせっかくキャラ付けを施したものの、クソみたいなイエスマン転校生が現れたおかげで、物語は一瞬で収束。佐藤をぶちのめしたくなってしまうだけの結末を迎えることになってしまいました。
この場合、転校生はどのような存在であった方が物語に起伏が生まれるでしょうか。
一番やりやすいのは、転校生を佐藤と相反するキャラにしてしまうことだといえます。
ラブコメ界のミスチル(と俺が勝手に今名付けた)高橋留美子の作品を見ると、そのヒロイン造形がいかに魅力的であるかがよく分かります。
なかでもらんま1/2で見せた天道あかねのツンデレっぷり。あれこそラブコメの頂点と言えるレベルに良いと感じるのは僕がオッサンだからでしょうか。
らんま1/2は’80年代に生まれた作品ですが、その後ネットスラングとして「ツンデレ」が誕生したのが2004年ごろ。
それから10年が経過した現在2015年ですら、ツンデレという言葉すらクラシックとなったものの、いまだに大人気なヒロイン造形であることは言うまでもありません。
最近でしたらニセコイなんかが典型的ですよね。
ツンデレの魅力は、嫌よ嫌よも好きのうち、という一言に集約されると思うのですが、だんだんと主人公にベタ惚れになっていくその様子がたまらないということでもあります。
①でも述べた、成長≒変化がここにも適用されているわけです。
重要なのは、主人公に相反する、敵対するキャラを主人公にとって重要な舞台装置とすることができる、って点なのです。
これが自由自在なわけですから、もう漫画つくるの超楽しいよね。
ラブコメを例に挙げていますが、バトル漫画やアクション映画なんかでもよくあるパターンなのです。
最近では、映画『ガーディアンズオブギャラクシー』なんかがとても良かった。
当初敵対していた奴ら同士が、ある共通する目的のために手を組むことによって、頼もしい主人公パーティが構成されるという展開です。
『ドラゴンボール』でも、ピッコロが仲間になった瞬間、めちゃくちゃテンションが上がりましたね。
敵が仲間になる、というのは中・長編でやりやすい「成長≒変化」であるといえましょう。
短編で描くならば、敵対するキャラを魅力的に描くというのはなかなか難しいですが、やりがいのあるキャラ作りです。
『ジョジョの奇妙な冒険』第1部では、主人公ジョナサンに対応するキャラとしてディオが描かれます。
ジョナサンとディオは徹底して対照的な存在として描かれます。人格としても、ジョナサンが貴族の出身で紳士を目指すのに対し、ディオは貧民街に生まれた反骨心から、手段を選ばない悪逆非道の手口でトップを目指します。髪の色も黒と白で、ビジュアル的にも分かりやすい比較がなされています。
また、敵対するキャラでなくとも、主人公を盛り上げる存在が脇役です。『ダイの大冒険』でも野性味あふれる勇敢な主人公ダイに対して、超ビビりのポップが名脇役として登場します。ポップはダイに負けずとも劣らない成長を見せていくこともあり、主人公よりも好きというファンが多いほどの名脇役です。
主人公のパートナーとして、はじめから仲良しで登場するわけではなく、登場初期のポップは「なんだこの性格悪いチキン野郎は!」と読者の反感を買うようなキャラ作りがされているのですが、それこそが作家の仕事であるといえます。
漫画のキャラ作りにあたって重要なのは、キャラをいったん突き放してあげる親心であるといえるでしょう。
自分の子供であるようなキャラたちを辛い目に遭わせるのはとても辛いことです。
あなたが常識人であればあるほど、哀しい思いをします。
ですが、常識というのは創作にとってフィルターでしかありません。
「こうしなければいけない」という発想を一つずつ丁寧に取っ払うことが、魅力的な発想を生むことにつながると私は信じております。
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